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京都地方裁判所 平成3年(ワ)1342号 判決

原告

尾崎定市

被告

美藤文夫

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金一七三万九〇二八円及びこれに対する昭和六三年七月七日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを九分し、その一を被告らの、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金一六四二万七一一九円及びこれに対する昭和六三年七月七日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、追突事故により傷害を負った普通貨物自動車の運転者が、追突した普通貨物自動車の運転者に対し民法七〇九条に基づき、その使用者であり事故車両の所有者に対し民法七一五条及び自賠法三条に基づき、損害賠償を請求した事件である。

一  争いのない事実

1  交通事故の発生(以下「本件事故」という。)

(一) 日時 昭和六三年七月七日午前一一時三五分ころ

(二) 場所 京都府長岡京市友岡三丁目一二―六先路上(通称府道樫原高槻線、以下「本件道路」という。)

(三) 加害車両 被告ミツオ食品株式会社(以下「被告会社」という。)が所有し、被告美藤文夫(以下「被告美藤」という。)が運転していた普通貨物自動車(京四五に六五五九、以下「被告車」という。)

(四) 被害車両 原告が運転していた普通貨物自動車(京都四〇め六九三四、以下「原告車」という。)

(五) 事故態様 原告車が赤信号停止中に、被告車が原告車後部に追突した。

2  被告らの責任

被告美藤には、前方不注視の過失があり、民法七〇九条に基づく損害賠償責任がある。

被告会社は、被告車の所有者であり、被告美藤の使用者であつて、本件事故は被告会社の事業執行中の事故であるから、自賠法三条及び民法七一五条に基づく損害賠償責任がある。

二  争点

1  傷害の有無及び本件事故との因果関係

原告は、本件事故により、外傷性頸部症候群、腰椎捻挫、不安定腰椎、変形性脊椎症、後頭部打撲、左大腿外側及び神経知覚障害、神経因性膀胱、感音難聴等の傷害を受けたと主張しているのに対し、被告らは、本件事故は極めて軽微な追突事故であり、原告の症状には明確な他覚的所見もないのであつて、原告が訴える各症状はいずれも本件事故とは因果関係がないと主張している。

2  後遺障害の有無及び程度

原告は、本件事故により、脊椎障害、腰椎部運動障害、荷重機能障害、左大腿部筋萎縮、右握力減弱、右足趾全部及び右足関節の背屈力減弱、左下腿上部から足尖まで知覚鈍麻、難聴の後遺障害が残つたと主張しているのに対し、被告らは、争点1と同様、原告が訴える各症状はいずれも本件事故とは因果関係がないと主張している。

3  損害額

第三争点に対する判断

一  本件事故の態様及び原告の傷害、症状、治療等の経過について

1  証拠(甲二~六、一一、乙一~八、一四、一五、証人土井、原告本人(後記措信できない部分は除く。))によると、以下の事実が認められる。

(一) 被告美藤は、被告車を運転し、学校等へ冷凍食品を運ぶ途中で本件事故現場にさしかかつた。被告美藤は、前方約二七・八メートル地点に停止中の原告車を認め、減速したが、その後わき見をしていたため原告車への接近に気付くのが遅れ、原告車の後方約七・二メートル地点で衝突の危険を感じて急ブレーキをかけたが間に合わず、原告車後部に衝突した。原告は、原告車に陶器を積んで赤信号停止中(サイドブレーキを引いていた。)に、被告車に追突され、約一メートル押し出されて停止した(原告はその本人尋問において衝突後四~五メートル押し出されたと述べているけれども、実況見分調書(甲一一)によると約一メートルの移動にとどまるとされていること、原告車被告車双方の車体の損傷は軽微なものであることなどから判断すると、右原告の供述は信用できない。)。

本件事故により、原告車は後荷台後面凹損と左尾灯レンズ割損の損傷を受け、被告車は前部ボデイー・前バンパー凹損と前ナンバープレート歪曲の損傷を受けたが、いずれも軽微なものであつた。

日本交通事故鑑識研究所の大慈弥雅弘作成の鑑定書によると、被告車が原告車に衝突したときの衝突速度は時速約九・一八キロメートルであり、原告車に対する衝撃加速度は約一・六二G(平均値)であるとされている。

(二) 原告は、救急車で済生会京都府病院(以下「京都府病院」という。)に搬入された。原告は、初診時、後頭部を座席後ろの窓枠で強打したとして後頭部痛、頭重感、嘔気を訴えていたが、他覚的には明らかな神経脱落症状はなく、X線検査・CT検査でも異常を認めず、通院して治療を受けることになった。

昭和六三年七月一二日、原告は、両手のしびれが強くなり、腰部に鈍痛も覚えたため、希望により同病院脳神経外科に入院した。入院中は、頸部にカラーを装着し、消炎鎮痛剤や精神安定剤の投与による治療を受けた。また、原告は、入院中に排尿障害を覚え同月一六日に泌尿器科に紹介されて治療を受け、また、左耳難聴を覚え同月二一日耳鼻科に紹介された(左感音難聴を認める。)ほか、眼科や精神科(事故後のいろいろの不満や不安感のため)でも診察を受けた。

(三) 原告は、同年八月一二日に退院し、通院して、ホツトパツク、頸椎牽引、簡単な運動療法により、もつぱら頸部に対する治療を続けていたが、同年一〇月一一日、腰痛が強くなつてきたと訴え、以後同病院整形外科においても治療を受けることになつた。

原告は、同病院整形外科においてX線検査により第三・四腰椎椎間に不安定性が認められ、軟性コルセツトを装着し治療を受けていたが、精査する目的で、同年一二月一二日から再度同病院整形外科に入院した。同月一三日に脊髄造影及び造影後CT検査を行い、第四腰椎不安定性が認められた。

平成元年一月二〇日、同病院リハビリテーシヨン科で筋力検査等の検査を行い、左側の肩・肘・手・股・膝・足いずれも低下が認められ、握力は右三一キログラムに対し左一五キログラムであつた。また、感覚は、触覚、痛覚とも左半身鈍麻、特に上肢下肢とも小指側がきつくなつており、深部感覚も軽度鈍麻、頸部は痛みのため伸展・側屈に可働域制限が認められた。また、同年三月六日、同病院耳鼻科を受診し、昭和六三年入院時と同程度の感音性難聴が認められた。

(四) 原告は、同年三月二九日に退院し、通院により前と同様の治療を受けた。同年五月から腰椎牽引治療も加わつたが、痛みを覚えるため同年六月には中止となつた。

その後も、腰痛、左大腿外側・左足外側の知覚鈍麻の症状は続き、同年七月から八月にかけて、腰椎椎間板造影検査、神経根造影検査や神経根ブロツクが数回実施された。その結果、第四・五腰椎神経根障害が認められたとして、手術を実施することになり、同年九月一日、再び同病院に入院した。

同月六日、第四・五腰椎神経根除圧開放術の手術が実施され、椎間板ヘルニアは認められず、椎間板の膨隆と椎体の後方辷りによる神経根圧迫が原因と考えられ、椎弓を切除し神経孔を開放する処置が行われた。

原告は、同年一二月二日に退院し、通院により前と同様の治療を受けたが、腰痛は持続し、平成二年二月から四月にかけて神経根ブロツクが実施された。しかし、その後も腰痛は持続し、通院による治療を続けた。

(五) 同病院整形外科の北田医師作成の後遺障害診断書には、自覚症状として、腰部に丸い塊がありしぼつてくるような痛みがある、両下肢にしびれ感が再燃してきた、左前腕から手部にかけてしびれ感がある、脊柱を伸展できずコルセツトを常用しているとされている。また、他覚症状及び検査結果として、〈1〉右手の握力が減弱(右三一kg、左三八kg)、〈2〉脊柱の伸展、屈曲、右側屈にて腰痛を訴える、〈3〉第三、四、五腰椎棘突起に叩打痛、圧痛を認める、〈4〉傍腰椎筋(両側)に圧痛を認める、〈5〉左下腿上部から足尖まで知覚鈍麻を認める、〈6〉右足趾全部及び右足関節の背屈力がやや減弱である、〈7〉左大腿部の筋萎縮がある(右四七cm、左四六cm)とされ、変形性脊椎症があり、胸腰椎部の運動障害が認められる(前屈七五度、後屈一五度、右屈二〇度、左屈二〇度、右回旋二五度、左回旋二五度)とされている。

2  当裁判所における鑑定の結果(鑑定書及び証人土井の証言)は、次のとおりである。

(一) 鑑定時(平成五年一〇月~平成六年三月)の諸検査の結果

X線所見は、頸椎については第4/5、6/7頸椎椎間やや狭小、各椎間とも後方に骨棘形成、ルシユカ関節の関節症性変化、椎間孔の狭小化など中等度の頸椎症性変化が認められ、腰椎については第四、五腰椎椎弓の右側に部分欠損が認められ(椎弓分離に似た像を示す)、側面像で第3/4腰椎椎間に逆辷りの不安定性が認められ、他の部位と同様各椎体とも骨棘形成など脊椎症性の変化が認められ、ことに下部腰椎で椎間関節の関節症性変化が著しいとされている。

頸椎MRI所見は、各椎間とも椎間板の変性、狭小化が認められ、椎間レベルに一致して脊椎管への膨隆があり、硬膜柱の硬膜外腔に陥凹となって認められるが、脊髄の変形とか輝度の変化は認められないとされている。

脳CT検査や電気検査(筋電図や体性感覚誘発電位)の結果は特に異常は認められない。

心理性格テスト(ロールシヤツハ検査)の結果は、種々の感情的体験が身体的不都合として訴えられやすい未分化の性格があり、種々のレベルの不都合が込みになつて身体的具合の悪さあるいは不快さとして訴えられており、こういう状態はアレキシシミヤといわれる状態で、一種の心身症といえるとされている。

耳鼻科検査所見は、両側(耳)とも軽度から中等度の感音性難聴が認められるが聴力の左右差は僅かであり、左難聴が頸椎外傷で引き起こされたものとは断定しがたいとされている。

(二) 現在の状態(原告の診察及び右各検査結果を総合して判断)から推定される障害

現在の訴えの主なものは腰痛、左下肢又は半身のしびれ、頻尿、難聴である。

そのうち、腰痛に関しては、X線上、第3/4腰椎椎間の逆辷りの不安定性、椎間関節の関節症性変化、分離症類似の椎弓の部分欠損が認められ、これらが腰痛の原因と考えられる。

左下肢又は半身のしびれに関しては、これを痛みとみた場合には腰痛と同様の原因が考えられ、これを感覚の鈍さとみた場合には、知覚テストで左半身の顔面から足先までの鈍麻があるがこれを裏付ける器質的障害は認められないことや躯幹部の知覚テストで左側の知覚障害域の内側・正中線の左側に正常帯のあること(神経学的には不合理)、圧痛点が広範囲にあること、訴えが少しずつ変化していることなどからして、心因性のものと考えられる。

頻尿と難聴に関しては、これらを裏付ける器質的障害を認めることができず、心因性の可能性が高い。

(三) 現在の状態と本件事故との関連について

(1) 本件事故と直接因果関係を有する症状は、しびれ、頻尿、めまい、疲れやすさなどであり、これらはアレキシシミヤという現実認識の障害を示す精神心理の状態である。アレキシシミヤは本件事故との関連で発現したものであり(発生機序は素因の存在と外傷)、いわゆる外傷性神経症である。

(2) 腰痛については、臨床症状、画像所見、手術所見を通じて外傷起因と思われる所見はない。しかし、腰椎の不安定性、椎間関節の関節症を基に、そこに外傷が働いて腰痛を発現、あるいは増悪させたかもしれないということが想像される。しかし、この場合は受傷直後からの痛みであり、徐々に緩回する性質のもので、長期の増悪・緩回という変化は本来の非外傷性の不安定性腰痛、椎間関節性腰痛ということになる(本件事故と直接の因果関係はない。)。

腰痛は一部このアレキシシミヤの症状として捉えた方が妥当と思われる。

腰痛の一部はすでに存在した脊椎の変形性変化を基盤にして発症しているものである。

腰痛が本件事故の影響を受けたとしても、それによる増強、発症は一時的なもので永続するものではないと考えられる。

(3) 難聴は、左右差が僅かであり、特に訴えが強い理由としては心因性の要因を考えてもよいのではないかと思われる。

二  傷害の有無及び本件事故との因果関係

1  以上の認定事実等に基づいて、原告の傷害と本件事故との因果関係について検討する。

まず、本件事故の態様は、前示一1(一)のとおりであり、追突による衝撃は比較的軽微なものであつたというべきであるが、およそ頸椎捻挫や腰椎捻挫を発生させ得ないというほど軽微なものではないといわざるを得ない。

そして、原告の症状及び治療の経過、諸検査結果等を総合して判断すると、鑑定の結果にあるとおり、原告には事故前から頸椎部や腰椎部に加齢性の変形性脊椎症等の既往症が存在したところ、本件事故の衝撃により痛み等の症状を発現し、これに原告自身の精神的要因が加わつて、症状が悪化、長期化し、また、頻尿や難聴といった症状も発現してきたものと認められる。

被告らは、原告の訴える症状は詐病であると主張しているけれども、原告の担当医師及び当裁判所の鑑定人のいずれもが原告の訴える症状について説明可能なものとしており、他方被告らが指摘する本件事故の態様や原告の訴えがいわゆる不定愁訴である等の事実だけではこれを詐病と認めるには不十分であるから、被告らの主張は採用できない。

2  したがつて、原告が本件事故後訴えて治療を受けた傷害及び症状は全て本件事故と相当因果関係があるというべきである。

もつとも、前示のとおり、〈1〉本件事故は比較的軽微な追突事故であつたこと、〈2〉原告について本件事故による発生した器質的障害はないこと(原告の症状の一因と考えられる器質的障害はすべて加齢性の既往症である。)、〈3〉現在の症状のうちの中心的なものである腰痛や左下肢のしびれについては本件事故後数カ月間はほとんど訴えがなく、当初から存在したとしても比較的軽微なものであつたと考えられることや腰椎椎体の一部切除の手術の後もあまり症状が改善しなかつたことからすると、既往症である腰椎部の加齢性の変形が腰痛等の症状の一因であるとしてもその程度は比較的軽いと考えられること、〈4〉治療期間を通しての原告の訴える症状は多岐にわたつており、また一定しておらず、神経学的に合理的な説明のつかない点も存在すること、〈5〉鑑定の際の心理性格テストにより心身症の一種であるアレキシシミヤという判定がされたこと、〈6〉これらの事情から鑑定人は原告の症状はいわゆる外傷性神経症と判断していることなどの事情を総合して判断すると、当裁判所における鑑定の結果は相当と認められ、結局、原告が本件事故から受けた頸椎捻挫、腰部打撲の傷害は、その後外傷性神経症となり、頻尿、難聴といつた症状を発現するとともに、腰痛等の長期化という状態に移っていったものと認めるのが相当である。

三  後遺障害の有無及び程度

前示一及び二のとおり、原告の現在の後遺障害の主な症状は、腰痛、左下肢又は半身のしびれ、頻尿及び難聴であるところ、これらはいわゆる外傷性神経症というべきものであり、右障害の内容、性格及び程度から判断して、右後遺障害は自賠法施行令二条別表第一四級第一〇号相当の後遺障害と認めるのが相当である。

京都府病院整形外科の北田医師作成の後遺障害診断書(甲六)には、他覚症状及び検査結果として、〈1〉右手の握力が減弱(右三一kg、左三八kg)、〈2〉脊柱の伸展、屈曲、右側屈にて腰痛を訴える、〈3〉第三、四、五腰椎棘突起に叩打痛、圧痛を認める、〈4〉傍腰椎筋(両側)に圧痛を認める、〈5〉左下腿上部から足尖まで知覚鈍麻を認める、〈6〉右足趾全部及び右足関節の背屈力がやや減弱である、〈7〉左大腿部の筋萎縮がある(右四七cm、左四六cm)とされ、変形性脊椎症があり、胸腰椎部の運動障害が認められる(前屈七五度、後屈一五度、右屈二〇度、左屈二〇度、右回旋二五度、左回旋二五度)と記載されているけれども、右〈1〉〈6〉〈7〉はいずれも比較的軽微な所見であり、変形性脊椎症は前示二のとおり後遺障害の原因としての重みは比較的軽いと考えられ、その他の点についてはいずれも外傷性神経症としても理解可能なものであつて、結局はいずれも明確な器質的、他覚的所見ということはできない。したがつて、この診断書を考慮しても、原告に第一四級以上の後遺障害を認めるには不充分である。

四  損害額

1  入院雑費(請求同額) 三〇万二九〇〇円

前示のとおり、原告は本件事故による傷害の治療のため、京都府病院に昭和六三年七月一二日から同年八月一二日まで(三二日間)、同年一二月一二日から平成元年三月二九日まで(一〇八日間)及び同年九月一日から同年一二月二日まで(九三日間)の合計二三三日間入院したものであり、入院雑費は一日当たり一三〇〇円と認めるのが相当であるから、右金額となる。

2  休業損害(請求額四五六万二九〇二円) 一八八万〇七一四円

証拠(七、八、九の1~27、原告本人)によると、原告は、本件事故当時水道配管工として丁ケ坂商会に勤務し、日額一万一六八二円を得ていたことが認められる。また、前示のとおり、本件事故による傷害の治療のため京都府病院に昭和六三年七月一二日から同年八月一二日まで、同年一二月一二日から平成元年三月二九日まで及び同年九月一日から同年一二月二日まで合計二三三日間入院し、また、平成三年六月三〇日まで同病院に通院して治療を受けていたところ、原告はもつぱら頸部痛、腰痛、左上肢・下肢のしびれ感、頻尿、難聴の症状を訴えていたが、これらは外傷性神経症というべきものであり、症状固定後も右同様の外傷性神経症の後遺障害(自賠法施行令二条別表第一四級相当)が残つたものである。

これらの事実を総合して判断すると、本件事故と相当因果関係ある休業損害としては、右日額を基礎とし、手術のために三回目に入院し退院した平成元年一二月二日までの五一四日間は一〇〇パーセント、その後症状固定した平成三年六月三〇日までの五七四日間は平均して六〇パーセントその労働能力を喪失したものと認めるのが相当である。

そして、原告が労災保険から休業補償として合計八一四万七一一四円の支給を受けていることは当事者間に争いがない。

したがつて、休業損害は右金額となる。

11,682×(514+574×0.6)-8,147,114=1,880,714

3  後遺障害逸失利益(請求額七三二万五五二五円) 一五二万九七七〇円

前示三のとおり、原告には自賠法施行令二条別表第一四級相当の後遺障害が残つたものと認められる。そして、原告は本件事故当時満五三歳であり、症状固定した平成三年六月三〇日当時は満五六歳であるから、その後一一年間にわたり、その労働能力の五パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。したがつて、ライプニツツ方式により年五分の中間利息を控除して、逸失利益を算定すると、右金額となる。

11,682×365×0.05×(9.8986-2.7232)=1,529,770

4  慰謝料(請求額八〇〇万円) 三〇〇万円

本件事故により原告が負つた傷害の内容及び程度、治療期間、後遺障害の内容及び程度等を総合して考慮すると、原告の精神的損害に対する慰謝料としては、金三〇〇万円が相当である。

5  以上を合計すると、六七一万三三八四円となる。

五  損害の填補

原告が、被告ら加入の自動車保険から、本件事故の損害賠償として、すでに三二五万七二〇八円を受領していることは、当事者間に争いがない。また、証拠(甲一〇)によると、原告は労災保険の障害給付金として一八七万七一四八円の支給を受けていることが認められる(その他の特別支給金等は損益相殺の対象とすることはできない。)。

したがつて、これらを控除すると、一五七万九〇二八円となる。

六  弁護士費用(請求額一四九万三〇〇〇円) 一六万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、一六万円と認めるのが相当である。

七  結論

これらを合計すると、一七三万九〇二八円となる。

よつて、原告の被告らに対する請求は、右金額及びこれに対する不法行為の日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡健太郎)

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